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【プロバイダ責任制限法】改正による変更点は?ポイントをわかりやすく解説

改正された【プロバイダ責任制限法】の変更点は?ポイントをわかりやすく解説

2022年10月1日、改正されたプロバイダ責任制限法が施行されました。(公布は2021年4月28日)

本記事では、2022年10月1日に施行された「(改正)プロバイダ責任制限法」について、改正される前との変更点や理解しておきたいポイントなどをわかりやすく説明します。

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そもそも、「プロバイダ責任制限法」って何?

そもそも、「プロバイダ責任制限法」って何?

まずは、「そもそも、プロバイダ責任制限法って何?」と考えている方のために、プロバイダ責任制限法の成り立ちについて簡単に説明します。

「プロバイダ責任制限法」は、正式な名称を「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」といいます。

プロバイダ責任制限法は、第1条で次のように定めています。

この法律は、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害があった場合について、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示を請求する権利について定めるとともに、発信者情報開示命令事件に関する裁判手続に関し必要な事項を定めるものとする。

引用:特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律 | e-Gov法令検索

つまり、この法律は、①損害賠償責任の制限②発信者情報の開示、の2点を定めるものということですが、使われている言葉も難しく少し分かりづらいですね。

まず、「特定電気通信」というのは、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信のことを指します。簡単にいえば、インターネット上で誰でも見ることができる、という状態を指すと考えてもらえればよいです。

次に、「特定電気通信役務提供者」というのは、特定電気通信を提供する者を指すので、簡単にいえば、インターネット上のサービスを提供する主体、つまりウェブサイトを提供していたり、インターネット接続事業をしている者(プロバイダ等)などを指します。

①損害賠償責任の制限というのは、プロバイダ等はウェブサイトを常時監視して即時に問題ある内容を削除することは難しいため、被害者等からの申告を受けて一定の対応を取れば責任を問われないということです。

②発信者情報の開示というのは、インターネット上で名誉毀損やプライバシー侵害を受けた場合に、その投稿等をした者(発信者)を特定するということです。

今回の改正では、この②発信者情報の開示に関して、新たな手続きが定められるなどしました。

プロバイダ責任制限法運用の指針となるガイドラインがある

2001年に初めて公布されたプロバイダ責任制限法を適切に運用するため、2002年にはプロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会が設置されました。

有識者が検討を重ね、この法律を正しく運用するための指針として発表しているのが「プロバイダ責任制限法 名誉毀損・プライバシー関係ガイドライン」や「プロバイダ責任制限法 発信者情報開示関係ガイドライン」等の各種ガイドラインや手引きです。

こちらのガイドラインも時代の流れや法改正に沿って内容の検討や改訂が繰り返されており、2024年4月現在「名誉毀損・プライバシー関係ガイドライン」は2022年(令和4年)6月に公開された第6版、「発信者情報開示関係ガイドライン」は2022年(令和4年)8月に公開された第9版が最新となっています。

改正されたプロバイダ責任制限法とは

改正されたプロバイダ責任制限法とは

今回改正された新しいプロバイダ責任制限法(「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律」)は、2021年4月28日に公布され、2022年10月1日より施行されました。

インターネット上の違法・有害情報に対する対応

引用:総務省|インターネット上の違法・有害情報に対する対応(プロバイダ責任制限法)

ここでは、新しくなったプロバイダ責任制限法の、変更点の大きなポイント2点を詳しく解説していきます。

変更点のポイント①:開示請求を行うことのできる範囲の変更

プロバイダ責任制限法が制定された当初、この法律が想定していた「特定電気通信」は当時流行していたインターネット掲示板のような、ログイン不要で書き込みを行えるサービスでした。誹謗中傷やプライバシーの侵害と判断される投稿が行われる舞台が、インターネット掲示板や個人のブログなどに集中していた時代です。

しかし、現在は誹謗中傷やプライバシーの侵害問題の主な舞台はTwitterやInstagramなどといったSNS(ログイン型サービス)が中心となってきており、「ログイン型サービス」の中には、ログイン時のIPアドレスとタイムスタンプは保存しているけれども、投稿時のIPアドレスとタイムスタンプは保有していないというものがあります。

改正前の法律では、開示できる情報の範囲は「権利の侵害に係る発信者情報(=投稿時のIPアドレスとタイムスタンプ)」とされていたため、ログイン時のIPアドレスとタイムスタンプ(=権利侵害となっている投稿自体の情報ではない)が開示されるかどうかは裁判官の判断に委ねられてしまう状況でした。

つまり、同じTwitterを利用した名誉毀損トラブルであっても、Twitter社が保有しているログイン時のIPアドレス等の情報の開示は認められた例と認められなかった例があるということです。

今回改正されたプロバイダ責任制限法では、こういった時代の流れを汲んだ変更になっている点がポイントです。SNSでのトラブルを想定し、SNSなどのログイン型サービスにおいては「特定発信者情報」として、ログイン時の情報の開示請求が可能となりました。

変更点のポイント②:発信者情報開示請求に必要な裁判の簡略化

改正前のプロバイダ責任制限法では、被害者(=申立者等)が誹謗中傷等を書き込んだ発信者に対して損害賠償の請求を行う場合「SNS事業者(コンテンツプロバイダ)」「通信事業者(アクセスプロバイダ)」双方を相手に2回の裁判を行わなければ発信者の特定ができませんでした。

【改正前のプロバイダ責任制限法】

まず、SNS事業者(コンテンツプロバイダ)を相手に裁判を行い、発信者のIPアドレスやタイムスタンプを開示してもらいます。その後通信事業者(アクセスプロバイダ)を相手に裁判を行い、発信者の氏名や住所、電話番号を開示してもらいます。

2回の裁判をクリアして初めて、「発信者の特定」が完了します。

被害者が発信者に対して損害賠償の請求を行いたい場合、上記2回の裁判を経て発信者を特定して初めて損害賠償をめぐる裁判にうつることができます。これら3回の裁判手続きを全て行うには、膨大な時間とコストがかかってしまうという点が大きな問題となっていました。

被害者が発信者に対して損害賠償の請求を行いたい場合

参考:総務省|インターネット上の違法・有害情報に対する対応(プロバイダ責任制限法)

改正後のプロバイダ責任制限法では、新たに「発信者情報開示命令事件」が創設されました。

開示命令事件では、裁判所が、発信者情報開示命令の申立て(以下「開示命令の申立て」という。)を受けて、発信者情報開示命令(以下「開示命令」という。)より緩やかな要件により、コンテンツプロバイダに対し、(当該コンテンツプロバイダが自らの保有する IP アドレス等により特定した)経由プロバイダの名称等を被害者に提供することを命じること(提供命令)ができることとしている(法15条)。

引用:プロバイダ責任制限法発信者情報開示関係ガイドライン別冊 「発信者情報開示命令事件」に関する対応手引き (PDF)

この改正により、SNS事業者(コンテンツプロバイダ)と通信事業者(アクセスプロバイダ)のふたつを一体的に審理し、一回の裁判手続によって必要な情報の開示が可能になりました。

発信者情報開示命令事件の申立人は、同事件を本案とする特殊保全処分として、提供命令の申立て及び消去禁止命令の申立てをすることもできます(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)5条、8条〜18条等参照)。

引用:発信者情報開示命令申立て | 裁判所

ここで示されていることは、改正後のプロバイダ責任制限法ではSNS事業者(コンテンツプロバイダ)と通信事業者(アクセスプロバイダ)のふたつを同時に相手にし、

①開示命令(プロバイダ責任制限法第8条)
②提供命令(プロバイダ責任制限法第15条)
③消去禁止命令(プロバイダ責任制限法第16条)

3つを1度の裁判手続(非訟手続)で完結できるようになったということです。ちなみに、発信者情報開示命令事件に関する裁判手続は、現在(改正後)は2022年10月1日以前に発信された投稿に関しても利用することができます。

プロバイダ責任制限法が改正されるに至った理由

プロバイダ責任制限法が改正されるに至った理由

今回プロバイダ責任制限法が改正された理由は、改正のポイントを見てもわかる通りSNSの普及と、それに伴うトラブルの変化に対応するためだと言っても過言ではありません。

現在、インターネット上における誹謗中傷やプライバシー侵害の問題はSNSが関係している場合がほとんどと言えるにもかかわらず、改正前の「プロバイダ責任制限法」ではSNSのトラブルはあまり想定されていませんでした。

その結果、SNSで起こったトラブルを被害者が解決しようとするには、何度も裁判を起こさなくてはならなかったり、それに伴う手続きを何度も行わないといけなかったりという状況が続きました。当然、解決に至るまでに時間やコストがかかってしまいます。

それにもかかわらず、改正前のプロバイダ責任制限法では裁判官の判断により発信者情報開示命令の範囲に差が出てくる場合があるなど、被害者の負担が大きいと言えるポイントが多くあります。

さらに、不特定多数の、顔も名前もわからない人物から攻撃され続ける事は、被害者に大きなダメージやストレスを与えます。精神的に辛い状況が続いても問題解決の難易度が高いために、泣き寝入りしてしまう人や生きていることをやめたいと考えてしまう人もいました。

2022年10月1日より施行された改正プロバイダ責任制限法では、現代の一般的なインターネットの利用状況を鑑み、かねてより問題視されていたSNSにまつわる誹謗中傷・プライバシー侵害のトラブルに対応する形へと改善されました。

プロバイダ責任制限法改正による影響

約10年ほど前から人気を伸ばしてきたSNSは、現在ではほぼインフラのように人々にとって身近なものとなりました。それと同時に、深刻なネット上での誹謗中傷トラブルも増えていきました。

インターネットは世界のどこからでも閲覧可能であり、一部のSNSは拡散のスピードも速いため、いちどネット上に誹謗中傷やプライバシーを侵害するような投稿が行われた場合、対処もスピード感を持って行わなければいけません。

改正されたプロバイダ責任制限法は、投稿者(加害者)を特定する手続きが法定されたため、改正前よりも短期間で相手の特定が可能になりました。

これは、今まで泣き寝入りするしかなかった被害者の立場から考えれば、解決のための門が広くなったと言えます。

一方、コンテンツを提供しているプロバイダ(Twitter社やMeta(旧Facebook)社など)にとっては、申立人(被害者)と通信事業者(アクセスプロバイダ)の間に立ってそれぞれに情報提供を行わなくてはならないなどのコストがかかることが予想されます。

まとめ|プロバイダ責任制限法は現代のネット問題に合わせて改正されている!

プロバイダ責任制限法は現代のネット問題に合わせて改正されている!

2022年10月1日から施行された改正プロバイダ責任制限法について解説しました。

今回の改正による重要なポイントはふたつ。

①開示請求を行うことのできる範囲の変更
②発信者情報開示請求に必要な裁判手続の法定

となっています。変更の重要なポイントとして紹介した2つはどちらも、現代のインターネット上で起こっている誹謗中傷問題に合わせて改正されたものと言えます。

プロバイダ責任制限法が初めて公布されたのは2001年。それから約20年が経ち、私たちをとりまくインターネットの状況は大きく変わりました。

誰もがインターネットを使って自分の意見を自由に発信できることは良い事ですが、それを悪用して他人を攻撃する人がいるのも事実。

「表現の自由」や「言論の自由」を尊重しながらの法整備は難しい問題でもありますが、今回の改正によって問題解決に一歩踏み出せる方が増えることを願います。

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監修者
法律事務所アルシエン 共同代表パートナー

清水 陽平

清水陽平弁護士
2007 年弁護士登録(旧60期)。2010 月11 月法律事務所アルシエンを開設。 インターネット上で行われる誹謗中傷の削除、投稿者の特定について注力しており、Twitter、Facebook、Instagramに対する開示請求について、それぞれ日本第1号事案を担当。 主要著書として、「サイト別 ネット中傷・炎上対応マニュアル[第3版]」(弘文堂)、「企業を守る ネット炎上対応の実務」(学陽書房)を出版している。