ネット炎上予防

スシローから分析する企業の炎上への対処法

近年炎上する飲食店での迷惑動画は、以前「バイトテロ」と呼ばれていた社内の人間によるものから、「バズりたい」などを理由とした一般客によるものが増えてきています。

今回は、2023年1月末に大手回転寿司チェーン店であるスシローで起こった炎上事例を取り上げ、その対応方法について分析します。さらに、そこから他の企業が学ぶべき炎上の対処法や顧客の信頼回復に向けた取り組みなどを解説していきます。

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スシローの「事件と炎上」何があった?

スシローの「事件と炎上」何があった?

2023年1月、スシローの店内(スシロー 岐阜正木店)で少年が備え付けの湯呑みや醤油ボトルの注ぎ口を直接舐め、そのまま元の位置に戻すといった迷惑行為を撮影した動画が拡散されました。

さらに続けて2月にも別の店舗(スシロー 光の森店)にて、ある男性が消毒用のアルコールスプレーを商品に噴霧するといった迷惑行為を撮影した動画が拡散されました。

これらの動画は、まずInstagramのストーリーに掲載された後、Twitter等のSNSで拡散。有名YouTuberなども事件を取り上げたことでさらに周知が拡大するところとなり、大きな話題を呼んでいます。

今回の事件でスシローが受けた被害とは

今回の事件でスシローが受けた被害とは

ひとつめの動画が流れた際にはスシローの運営会社「あきんどスシロー」の親会社「株式会社FOOD & LIFE COMPANIES」の株価が下落しました。不適切動画に関して企業側に落ち度があった訳ではなくても、一般ユーザーからの心象が悪くなったという事が容易に想像できます。

実際、「他の店舗でもやられてないか不安」「回転寿司は不衛生なイメージが付いた」などといった投稿がSNSでも行われていました。

それだけではなく、ふたつめの動画では食品にアルコールが付着することによりアルコールアレルギーの方への健康被害が起こる可能性もあり刑事事件にまでなる騒動となっています。

動画内で迷惑行為が行われた対象の店舗ではすべての湯呑の洗浄としょうゆボトルの入れ替えが行われ、全国の郊外型店舗では順次テーブル席と提供レーンの間に一部アクリル板の設置が進められることとなりました。

スシロー側の対応と注目すべきポイント

スシロー側の対応と注目すべきポイント

今回の一連の事件においてスシロー側が行った対応と、その対応の内容について注目すべきポイントを見ていきましょう。

それらのポイントを解説していきますので、企業として参考にできる点があればぜひ活用し、炎上対策の強化に役立ててください。

素早く適切な対応

まず、事件に対するスシローの素早い、かつ的確な反応は注目すべきポイントだと言えます。一連の事件に関するスシローの報告や反応は以下となります。

日時 内容 媒体
2023年1⽉30⽇  SNSで拡散されたスシロー店舗での迷惑⾏為について 公式サイト
2023年2月1日 SNSで拡散されたスシロー店舗での迷惑行為に関するお知らせ 公式サイト
2023年2月2日 社長メッセージ Twitter
2023年2月3日 店舗運営方法の一時変更について 公式サイト
2023年2月10日 SNS 上での迷惑行為に対する報道その他の内容について 公式サイト
2023年2月10日 社長メッセージ Twitter
2023年2月24日 SNS で拡散されたスシロー店舗での迷惑行為に関するお知らせ 公式サイト

ひとつめの迷惑動画が大きく拡がり、事件が明るみになったのが1月29日。翌日には公式サイトに最初の情報が掲載されました。その後も短期間に情報が掲載されています。

公式サイトやSNS(Twitter)を利用していますが、企業としての重要事項に関しては公式サイトにしっかりと記載しています。

企業が炎上に巻き込まれた際、慌ててしまうと特に更新の手軽なSNS(Twitter)で情報を発信してしまいたくなる担当者もいるでしょう。しかし、TwitterやInstagramなどのSNSは「なりすましアカウント」や誤情報が溢れる場でもあります。

一方、企業の公式サイトは信頼度が高く、ネットリテラシーの高い人であれば真っ先に公式サイトを確認します。そうでなくても、情報の正誤を見極めるために公式サイトを見る方は多くいます。企業の公式見解など重要なお知らせは、必ず企業の公式サイトに掲載するようにしましょう。

適宜の適切な報告

炎上が発生した際、対応が遅くなればなるほど様々な憶測が生まれ、誤解や誤情報(デマ)発生の可能性も上がります。かといって、初期の対応を間違えてしまうと火に油を注ぐ状態にもなりかねないのが難しいところと言えます。

今回の事件におけるスシローの情報掲載において評価できるポイントには、情報掲載のスピードとともに、その報告内容も素晴らしかったという点もあります。

もっと具体的にいうと、公式のお知らせとして素早く情報を公開し、かつ、お知らせの内容には「事実」と「ユーザー(マスコミや一般客)の知りたい情報」だけを淡々と述べているところが素晴らしかったと言えます。

1月30日に最速で掲載された「SNS で拡散されたスシロー店舗での迷惑⾏為について」には、

  • 企業として炎上を把握している
  • 既に事実確認や対策の動きに入っている
  • 問い合わせ先

という、必要最低限でありながら多くの人が知りたい情報を短時間で掲載しています。「刑事民事の両面から厳正に対処する」と明記することにより、企業として今回の事件をとても重く受け止めているという意思も示しています。

続いて、2月1日の「SNS で拡散されたスシロー店舗での迷惑行為に関するお知らせ」という報告で注目すべきポイントは、

  • 対象店舗を明確にしている
  • いつ、どのような対処をしたのかがわかりやすく書かれている
  • 「刑事、民事の両面から厳正に対処」することを改めて明言
  • 防止策の提案(既に実行に移している)

という点です。事件直後の発表では「企業として事件を把握しており、既に動いています」ということを知らせる内容であったのに対し、3日目となる2月1日の発表では事件について具体的な内容が調査結果として細かく掲載されています。

続く2月3日の情報「店舗運営方法の一時変更について」では、前回(2月1日)の発表から「防止策について」という重要な部分を、よりわかりやすく説明しています。

内容は既に掲載されている「防止策について」と同じものですが、実際に店舗に訪れる客にとっては一番重要な部分でもあるため、徹底的に周知していく事が大切です。

加害者への配慮

スシローが2月24日付けで公式サイトに掲載した文書では、加害者の少年やその関係者について以下のように言及しています。

当社としましては、健全にご利用いただいているお客さまにご迷惑がかかる行為や、食の安全と安心を脅かす行為につきましては、今後も絶対にあってはならないと捉えており、刑事・民事の両面から毅然とした対応を行って参ります。

従いまして、既に発覚している一連の事象に関係する方々への直接的な危害となるような言動はお控えていただくよう伏してお願い申し上げます。

引用:SNSで拡散されたスシロー店舗での迷惑行為に関するお知らせ(PDF)

上記の文章でのポイントは、「企業として毅然とした対応を行うと明言したこと」「『直接的な危害となるような言動はお控えていただくよう伏してお願い』したこと」の2点となります。

実際、迷惑行為を行った少年や男性、その関係者はすぐに個人情報や氏名等が特定されてしまっています。少年が通っているとされる学校にも問い合わせが殺到しました。

匿名性の高いSNSなどではとくに、こういった迷惑行為をした人間に対して「(悪者だから)何を言っても良い」「罪を許してはいけない」と考え、ありとあらゆる攻撃を行う人が一定数います。

そういった人たちはあくまでも「(被害者側のスシローの味方である)自分は正義」だと信じて行動しており、「悪」を徹底的に懲らしめようとするのです。しばしば「行き過ぎた正義感」などと言われることもありますね。

被害者であるスシローが企業として「刑事・民事の両面から毅然とした対応を行う」と発表したうえで「直接的な危害となるような言動は控えるようお願い」することで、行き過ぎた正義感から引き起こされる過剰なバッシングを避けようとしています。

トップの名前が添えられたメッセージ発信

公式サイトでのお知らせとは別に、スシローの公式Twitterでは代表取締役社長の名前が添えられたメッセージが投稿されました。

スシロー公式Twitter 2月2日

引用:スシロー公式Twitter

これは、本来迷惑動画の被害者でありながら悪いイメージがついてしまったスシローに対し、様々なユーザーが「#スシローを救いたい」というハッシュタグを使いTwitterで応援ツイートを行ったことに対する反応です。

スシロー公式Twitter 2月10日

引用:スシロー公式Twitter

これらの応援に対し、スシローが再び公式Twitterで反応したのが上の画像を添付した投稿です。

有志が始めた行動とはいえ、一般客からの応援の声を企業が「ちゃんと見ている」と表明することにより好感度を上げるだけではなく、今回の騒動以前にスシローが起こした景品表示法違反に関する反省の意をメッセージに含めている点もポイントと言えるでしょう。

スシローの炎上から学ぶ企業の心構え

スシローの炎上から学ぶ企業の心構え

今回、スシローは被害者となりますが、それでも「店側の対策が足りなかった」と指摘してくる人は一定数います。動画を観た事でスシローだけでなく外食産業全体に不潔なイメージを持った人もいたでしょう。

さらにスシローは今回の客による迷惑動画の炎上以外に景品表示法違反で炎上を起こした過去があるため、現在でも不信感を持ち続けているユーザーもいるのではないでしょうか。

それでも、今回スシローが行った対策の適切さや多方面に向けた配慮などから、ネット上ではどちらかというとポジティブに、「スシローを応援しよう」と考えている人が多く見られます。

この結果を踏まえ、今回起きてしまったスシローの炎上動画事件から他の企業も「万が一炎上してしまった場合の対応」を学ぶことができます。先ほど解説したスシローの対応から、重要な部分を今一度確認しましょう。

対応は素早く、情報は的確に

まず、公式からの情報を素早く出すこと、利用者や関係者の知りたい情報を明確にし、先回りして開示することの重要性がよく表れていました。

スシローは、最初のお知らせが掲載された時点では「企業が炎上の事実を把握し、重く受け止めていること」「既に対策に動いていること」「問い合わせ先」の3点を提示していましたね。

それから間もなく発信された次の情報には「事件について具体的な内容」「既に行い始めている防止策の提案」を掲載していました。

以降の発信も含め、それぞれの情報には利用者や関係者、マスコミ等の知りたい情報が明確に記されています。炎上の際はとくに、情報は隠そうとすればするほど疑われて詮索され、追いかけられます。

隠さず、先手を取って正しい情報を発信することによって、不要な疑いやデマ情報を回避し、結果的に信頼回復を早める結果となりました。

万が一の際にスピード感のある対応を取れるよう、普段から炎上をすぐに把握できる体制を整えておいたり、炎上してしまった場合の部署間の連携方法を考えておいたりするなども検討できると良いですね。

多方面への配慮を忘れない

今回のスシローの対応から、多方面に向けた細かい配慮の重要性も学べます。これは、もちろん既に紹介した情報掲載のスピードや内容の細かさなども含まれますが、その他にはどのような配慮があったでしょうか。

例えば、問い合わせ先の提示問い合わせ先をしっかり明示することによって窓口を統一し、情報のブレを防ぐことができます。スシローはチェーン展開を行っている企業ですので、近隣を中心とした各店舗に多くの問い合わせが行ってしまうのを防ぐ意図もあったと推測できます。

また、今後の防止策を数回に渡り掲載したこと、企業の顔である社長の名前を添えたメッセージを発信したこと、過去の炎上の反省を述べた(あえて触れた)ことなども、今回の事件を受けて不安を感じた利用客に向けた配慮が詰まっています。

それだけではなく「直接的な危害となるような言動は控える」ようにお願いするなど、メディアなどが加害者を必要以上に追い詰める事のないよう加害者に対する配慮まで考えられている点が素晴らしかったと言えます。

ただ加害者に対する危害を控えて欲しいとお願いするだけではなく、実際に迷惑を被った企業が「刑事、民事の両面から厳正に対処する」と明言したことで「企業としては事態を深刻に考えている」「事件を有耶無耶にするつもりはない(加害者をただ許す訳ではない)」と理解してもらえます。「悪い事をした者には罪を償って欲しい」と考えるメディアや客側が納得しやすい行動を取っているところも良い点です。

まとめ|スシローの対応から炎上してしまった際の対応を再度見直そう

スシローの対応から炎上してしまった際の対応を再度見直そう

スシローの迷惑動画炎上事件と、それに対するスシローの立ち回りについて解説しました。

今回のスシローが行った対応は、スピード感もさることながら情報発表のタイミングや内容もリスク管理の面から見て適切であったと言えます。とくに、各方面に対する配慮や発信すべき情報がよく考えられていた点などが注目すべきポイントです。

SNSが火種になる炎上事件は、企業がどれだけ気を付けていても可能性をゼロにすることは困難です。また、時代の流れなどによっても「適切な対応」は徐々に変わっていきます。常に最新の情報を入手し、定期的な対策方法の検討を重ねていくと安心でしょう。

今回の件から学び、万が一に備えて、炎上を素早く発見できる準備や関係部署の連携など炎上してしまった後の対策を企業全体で考えておくことが大切です。既に対策を考えているという企業も改善や見直しを重ね、体制を万全に整えておきましょう。

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監修者
法律事務所アルシエン 共同代表パートナー

清水 陽平

清水陽平弁護士
2007 年弁護士登録(旧60期)。2010 月11 月法律事務所アルシエンを開設。 インターネット上で行われる誹謗中傷の削除、投稿者の特定について注力しており、Twitter、Facebook、Instagramに対する開示請求について、それぞれ日本第1号事案を担当。 主要著書として、「サイト別 ネット中傷・炎上対応マニュアル[第3版]」(弘文堂)、「企業を守る ネット炎上対応の実務」(学陽書房)を出版している。