「そちらのサイトで注文したのに、商品が届かないんですが」
お客様からのこんな電話で、自社を騙る偽サイトの存在を初めて知る企業が増えています。フィッシング対策協議会の「フィッシングレポート2026」によると、2025年のフィッシング報告件数は過去最多の2,454,297件、かたられたブランドは229にのぼりました。
この記事では、なりすまされた企業側が取るべき対応を、発見当日の初動、通報先、お客様への注意喚起、消した後の守り方の順で解説します。消費者向けの見分け方は扱いません。私は入社後の4年間、ブランドセキュリティ事業部で企業名の検索結果を毎日監視していました。その経験も交えてお伝えします。
- 生成AI時代の偽サイトは数分で作られ、平均54時間で消えるため、対応は「1件消す」ではなく消し続けながら顧客接点を公式で固める設計にします。
- 通報より先に、URLとスクリーンショット・WHOIS情報・発見の経緯・被害の有無の4点を保存し、情シス・広報・法務・経営で窓口を一本化します。
- 通報先はフィッシング対策協議会・JPCERT/CC・警察庁のオンライン窓口に加え、Googleセーフブラウジングへの報告を最初に行い、お客様がたどり着く前に警告を出します。
- 注意喚起は「社名 偽サイト」で検索されるページとして作り、公式ドメイン一覧・偽サイトの特徴・相談窓口・対応状況・更新日の5項目を載せて当日中に公開します。
- テイクダウン後は社名検索の1ページ目を公式サイト・注意喚起・公的機関で埋め、ツールが拾えない偽サイトを人の目の監視で拾い続けます。

偽サイトが消えると、警察や弁護士に示す証拠も失われます。通報を急ぐ前に、発見の経緯や被害申告までまとめて保存します。
生成AIで偽サイトは「数分で作られ、数時間で使い捨てられる」ようになった
数分で構築、平均寿命は54時間:数字で見る偽サイトの今
Zscaler ThreatLabzの2026年版フィッシングレポートによると、生成AIで作られたサイトを413,524件特定し、10%近くが悪意のあるものと判定されました。構築ツールが悪用され、従来は数日かかっていた作業が数分で立ち上がると報告しています。
寿命も短くなりました。生成AI製に限らないフィッシング全体の調査ですが、WWW 2025で発表された論文「7 Days Later」は286,237件のフィッシングURLを分析し、平均寿命は54時間、中央値は5.46時間だったと報告しています。半分以上が1日たたずに消えている計算です。
精度も上がりました。Microsoftの「Digital Defense Report 2025」によると、AIで作られたフィッシングのクリック率は54%で、従来の12%の最大4.5倍でした。
| 比較項目 | 従来の偽サイト | 生成AI時代の偽サイト |
| 制作時間 | 数日 | 数分 |
| 寿命 | 事例によって大きく異なる | 平均54時間(フィッシング全体の調査値) |
| 対応の考え方 | 1件ずつ消す | 消し続けながら顧客接点を公式で固める |
「1件消して終わり」が通用しない理由
フィッシング対策協議会の2026年7月の月次報告では、1か月のフィッシングサイトURL件数が43,267件、悪用されたブランドは101件でした。単純計算で1ブランドあたり月400件を超えるURLが使われています。
ブランドセキュリティ事業部にいた頃、消えたと安心した翌週に別のドメインで同じ偽サイトが戻ってきたことが何度もありました。週単位だったそのサイクルが、今は日単位、時間単位です。対応は、後半で扱う「消した後の守り方」まで含めて初めて完成します。
なお、生成AIがなぜ本物そっくりの偽物を作れるのか、C2PAなど真正性を証明する技術については、フェイクニュース、ディープフェイクにどう備える? 2026年以降のデジタルリスク最前線で解説しています。
自社を騙る偽サイトを見つけた当日にやること:証拠保全と社内エスカレーション
偽サイトを見つけたら、すぐ通報したくなります。その前に証拠を残してください。平均寿命が54時間なら、通報の翌日には消えている可能性があります。消えた後では、警察や弁護士に見せるものが残りません。
通報より先に残す4つの証拠
- 偽サイトのURLと全ページのスクリーンショット(日時が分かる形で。PDF保存も)
- WHOIS情報(登録日、レジストラ、ネームサーバー)とIPアドレス、ホスティング事業者
- 発見の経緯(お客様からの連絡なら日時と内容、検索なら検索語と順位、広告なら広告の画面)
- 被害の有無(「届かない」「カードを使われた」といった申告の件数と内容)
この4点は警察相談、法的措置、テイクダウン依頼のすべてで使い回せます。動作を確かめようとして、担当者がIDやカード情報を入力するのは避けてください。
情シス・広報・法務・経営で窓口を一本化する
偽サイトは情報システム部門の問題に見えます。ところが実害が出るのは、お客様対応を担うカスタマーサポート、取引先を持つ営業、そして法務です。発見当日に、誰が通報し、誰がお客様に答え、誰が公表を判断するかを決めておかないと、部署ごとに違う説明をしてしまいます。目安は、発見から24時間以内に注意喚起の一報を出せる体制です。
問い合わせ窓口には、偽サイトの報告を受けたときの記録項目を当日中に共有してください。お客様の証言がそのまま証拠になります。担当者が1人の会社なら、顧問弁護士や監視会社など、当日に連絡する外部の相手を平時に決めておくのが現実的です。
偽サイトの通報先とテイクダウン依頼先|無料の公的窓口から専門業者まで
偽サイトを閉鎖に追い込むことを「テイクダウン」と呼びます。
まず無料で動かせる公的窓口:フィッシング対策協議会・JPCERT/CC・警察・ブラウザ警告
| 窓口 | してくれること |
| フィッシング対策協議会「フィッシングの報告」 | 情報を集約し、警察など関係組織へ提供する場合がある |
| JPCERT/CC インシデント報告システム | 国内外のISPやレジストラ、海外CSIRTと調整して停止を働きかける。 |
| 警察庁「サイバー事案に関する相談窓口」 | 全国統一のオンライン窓口。電話は#9110。被害届は管轄の警察署へ |
| Google セーフブラウジング フィッシング報告 | Chrome、検索、Gmailで警告が表示される |
| Microsoft「Report unsafe site」 | Microsoftに危険なサイトとして報告できる |
ブラウザ警告への登録は最初にやってほしい手続きです。サイトが消えなくても、お客様がたどり着く前に警告画面が出ます。なお、JPCERT/CCの働きかけは自発的な協力依頼で、強制力はありません。
ドメイン・ホスティング事業者への通報と、専門業者に頼む判断
公的窓口と並行して、偽サイトが使うドメインの登録事業者にも通報します。.comなどのgTLDでは、ICANNとのレジストラ認定契約により、レジストラに不正利用の連絡先を公開し通報を調査する義務があります。WHOISでレジストラを調べ、「フィッシング」「商標侵害」として英語で通報してください。
.jpドメインの場合、停止依頼は管理指定事業者やホスティング事業者の窓口に出し、登録情報の虚偽や登録資格違反が疑われるならJPRSの不正登録情報受付窓口(abuse@jprs.jp)にも情報提供できます。
月に複数件見つかる、海外や夜間の対応が必要、英語で交渉できる人がいない。いずれかに当てはまれば、テイクダウン専門の業者も検討します。費用の一例として、スポット依頼で数十万〜100万円程度と紹介している業者があります。
法的には、登録商標があれば商標法で差止請求を、未登録でも不正競争防止法の2条1項1号(周知な表示の混同)や2号(著名な表示の冒用)を検討できます。弁護士に相談するときは、証拠4点を持参してください。
顧客・取引先への注意喚起は「検索されるページ」として作る
通報と同じ日に、お客様への注意喚起を出します。このページは「社名 偽サイト」と検索したお客様が最初に見つけるページになります。お知らせ欄に1行載せるだけでは届きません。
注意喚起ページに載せる5項目と実例
日本ハムは2026年8月の注意喚起で、公式ドメインは1つだけと明記し、偽サイトとは「一切関係がございません」と言い切りました。HIGUCHI GROUPは2026年2月に、偽サイトのURL末尾(.click、.xyzなど)や個人名義の振込口座といった特徴を列挙し、公式ショップの一覧と警察の相談窓口まで案内しています。JTBは2025年1月に、警視庁や消費者庁の案内とあわせて注意を呼びかけました。
共通する項目は次の5つです。
- 公式ドメイン、公式SNS、公式ショップの一覧(これ以外は当社ではないと言い切る)
- 確認している偽サイトの特徴(URL末尾、支払方法、連絡先の不自然さ)
- 被害に遭った方への案内(警察相談専用電話#9110、消費者ホットライン188、自社の相談窓口)
- 当社の対応状況(通報済み、警察に相談済みなど)と更新日
- 検索されるタイトル(「【重要】当社を騙る偽サイトにご注意ください」に社名を添える)
偽サイトのURLを載せるなら、リンクにはしないでください。

サイトの目立つ位置・SNS・メールで同時に届ける
ページを作ったら、トップページのバナー、公式SNSの固定投稿、既存のお客様へのメール、取引先への個別連絡を同じ日に出します。
メールで送るなら、自社のメール自体がなりすまされていないことが前提です。送信ドメイン認証のDMARCについて、ガイドライン2026年度版はポリシーを「reject」に設定する重要性を挙げています。フィッシング対策協議会の2025年1月の報告では、日経225企業の導入率は83%ある一方、rejectまで設定しているのは7%でした。
文面は「当社が悪い」でも「当社は無関係」でもなく、お客様を守るための情報として書く。煽る表現は、かえって不安を広げます。
テイクダウン後が本番:検索結果1ページ目を公式で守り、監視を続ける
本当に守りたいのは、お客様が社名で検索したときに偽サイトへたどり着かない状態です。
社名検索の1ページ目を公式サイト・注意喚起・公的機関で埋める
2022年10月19日、JR東日本の「えきねっと」の偽サイトがGoogle検索の最上位に表示されました。JR東日本が同日朝に発見してGoogleに削除を依頼し、同日中に検索結果から表示されなくなりました。「検索1位なら本物」という常識は、この時点で崩れていました。トレンドマイクロは2026年3月、ChatGPTやGeminiの回答経由で少なくとも422件の危険サイトへの誘導を確認したと報告しています。
ブランドセキュリティ事業部にいた頃、私は担当企業の社名検索の1ページ目を毎朝確認していました。ネガティブなページが入り込んだら、公式コンテンツで押し返す、この運用は偽サイトにもそのまま使えます。「社名」「社名 偽サイト」「社名 詐欺」で検索したとき、1ページ目が公式サイト、公式の注意喚起ページ、公式SNS、公的機関の注意喚起で埋まっていれば、偽サイトが入り込む余地は小さくなります。
被害が続くと「社名 詐欺」がサジェストに出ることもあります。消せるケースと消せないケースは、会社名を検索すると詐欺と出る…消せるケース・消せないケースと相談先を解説で扱っています。
ツールが拾えない偽サイトを人の目で拾う:監視の続け方と再発防止
監視ツールが拾えるのは、類似ドメインの新規登録やロゴ・文章のコピーといった、機械的に照合できるものです。検索にインデックスされていない偽サイト、ロゴを画像化したページ、広告経由の誘導、口コミサイトへの「詐欺」という書き込みは、人の目でないと拾えません。
エルプランニングがツール監視と有人監視を組み合わせているのは、この隙間を埋めるためです。監視の方法は企業の炎上対策監視とSNS監視をする必要性は?SNS炎上事例と監視方法を紹介しますをご覧ください。
平時の再発防止は3つです。
- 類似ドメインの先行取得と監視
- DMARCのreject設定とBIMIで、正規メールの視認性を上げる
- 注意喚起ページの雛形と通報テンプレートを用意し、発見から24時間以内に動ける体制にする
偽サイト対応は、「1件消す」から「消し続けながら、検索結果とお客様との接点を公式で固める」への転換です。これが守りのWEBブランディングだと、私は考えています。
よくある質問(FAQ)
Q: 商標登録していない社名やロゴでも、偽サイトに対応できますか?
できます。商標権侵害は主張できませんが、社名やロゴが需要者の間で広く知られている、または著名で、混同のおそれなどの要件を満たせば、不正競争防止法の2条1項1号や2号で差止や損害賠償を検討できます。要件の判断は弁護士に確認してください。通報や注意喚起は商標の有無に関係なく進められます。
Q: 通報してから偽サイトが消えるまで、どのくらいかかりますか?
JPCERT/CCが2020年に公開したブログでは、通知後3日ほどで半数以上が停止する一方、3日後も35%が稼働していました。海外サーバーはさらに時間がかかります。別ドメインで復活することも多いため、通報と並行してブラウザ警告への登録と注意喚起を先に出してください。
Q: 自社を騙る偽サイトを放置した場合、会社に法的責任はありますか?
なりすまされた企業が直ちに法的責任を負うと断定できる情報は確認できていません。ただ、問い合わせを放置すれば「対応しない会社」という評価が広がります。注意喚起と相談窓口の案内を早く出す説明責任は求められます。
Q: 検索広告やSNS広告で偽サイトに誘導されている場合はどうすればいいですか?
各プラットフォームの報告窓口へ。Google検索ヘルプでは、スポンサーリンクに偽サイトが出ている場合は広告側へ連絡する案内があります。SNSのなりすまし広告は、総務省が2024年にMeta社などへ対策を要請しています。広告の画面も証拠として残してください。
まとめ
生成AIで偽サイトは数分で作られ、数時間で使い捨てられるようになりました。だから対応は、当日の証拠保全、公的窓口とブラウザ警告への登録、検索されるページとしての注意喚起、そして検索結果1ページ目を公式で固めて監視を続ける、という一連の流れで設計します。
ブランドセキュリティ事業部で学んだのは、消すことより「戻ってきても入り込む余地がない状態」を作ることの大切さでした。エルプランニングは、ツール監視と有人監視を組み合わせた継続監視と、検索結果を守るブランドSEOで、偽サイト対応を「消した後」まで支援しています。自社を騙るサイトを見つけたら、証拠を保全したうえでご相談ください。

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