SNSが普及し始めてから急激に加速した「ネット炎上」。企業の製品やサービスをプロモーションするためにX(旧:Twitter)やInstagramなどの公式アカウントを開設している企業も少なくはありません。
特にリアルタイム性の高いX(旧:Twitter)などでは、クライアントとなるユーザーとの距離感が近く人気ですが、万が一炎上の火種となるような投稿があった場合、大きな拡散の可能性や多くの批判が殺到する可能性もあります。
本記事では、「ネット炎上が発生する原因とプロセスや炎上しやすい内容」「直近で企業が炎上した事例」などを踏まえたうえで、炎上の原因となる発言をしない対策方法や万が一炎上してしまった場合の対策方法を解説していきます。
「ネット炎上」とはどういうものか
総務省が発表している「令和元年版 情報通信白書」の中では、「ネット炎上」について以下のように説明されています。
「炎上」とは、「ウェブ上の特定の対象に対して批判が殺到し、収まりがつかなさそうな状態」「特定の話題に関する議論の盛り上がり方が尋常ではなく、多くのブログや掲示板などでバッシングが行われる」状態である。
引用:総務省公式ホームページ 令和元年版 情報通信白書「第1部 特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0」
2000年代後半にSNSが広く普及してから、「炎上」の主な舞台としてSNSが多く見られるようになりました。とくに、拡散性の高いX(旧:Twitter)で大きく拡散されて多くのユーザーに知れ渡ってしまった炎上が目立ちます。まずは、ネット炎上のプロセスや、近年の炎上原因を詳しく見ていきましょう。
ネット炎上が発生・拡散されていくプロセス
ネット炎上が大きく広がっていくプロセスには様々なパターンがありますが、基本的には以下のようなプロセスを辿ると言えます。
- 情報発信
- 拡散(主にSNSが中心)
- 匿名掲示板で話題になる
- まとめサイトに掲載
- ニュースサイトにて記事化
- マスメディアで報道
情報発信の場として先に匿名掲示板が利用される場合もありますし、口コミサイトなどが発信の場になるケースもありますが、多くの場合情報発信・拡散フェーズはX(旧:Twitter)などのSNSがメインとなっているのが現状です。
その後、匿名掲示板に個別スレッドが立てられたり、SNSで呟かれた内容をまとめる「まとめサイト」に掲載されたりする事で、さらに話題を呼びます。話題性のある内容はその後ニュースサイトで記事化され、SNSを利用しない層にも広まります。
最後にテレビやラジオなどのマスメディアで報道されてしまうと、インターネットを利用しない層にも知れ渡る事となるのです。
もちろん、「炎上させないようにする対策」は企業・個人どちらにとっても大切です。しかし、インターネットの炎上は自社(自身)が対策をしていたとしても起こり得るものです。さらに、拡散プロセスには、それぞれのフェーズに適した対策方法があります。こういった炎上のプロセスを理解しておく事で、万が一炎上してしまった場合でも迅速に適切な対処をおこなう事ができます。
炎上の原因となるものは?近年の傾向を考察
炎上の原因となるインターネットへの投稿内容を分類すると、大きく以下の4点に分けられます。
- 情報漏洩・異物混入などといった企業側の不祥事
- 「バイトテロ」と呼ばれる従業員の悪ふざけ行為
- 社員や関係者による内部告発
- 企業の不適切な発言やプロモーション
炎上の原因となりやすい投稿について、以下でひとつずつ詳しく見ていきましょう。
情報漏洩・異物混入などといった企業側の不祥事
企業の不祥事による炎上は多く、おそらく「ネット炎上」の例として最も身近に感じられるものではないかと考えられます。「食事に異物が混入していた」「店員の対応が良くなかった」「購入した製品が破損していた」などといった、クライアントが自身のSNSや口コミサイトに投稿したクレームがフォロワーやフォロー外の閲覧者などによって拡散されてしまうケースです。
元々投稿者に企業を炎上させようとする意図がなくても、投稿した文章が第三者によってスクリーンショットとして撮影された上で拡散、その行為が原因で炎上してしまうというケースや、マイナー(閲覧者の少ない)なサイトに投稿されていたものが同じようにスクリーンショットとして撮影され、X(旧:Twitter)など多くのユーザーが利用するサイトで拡散されてしまうケースもあります。
「バイトテロ」と呼ばれる従業員の悪ふざけ行為
従業員の悪ふざけ行為も大きな炎上原因としてニュースで報道されました。「バイトテロ」「バカッター」「バカスタグラム」などの用語を見た事のある人も多いかもしれません。この事例では、高校生や大学生といった若い学生の炎上事例も多く存在しています。
企業の従業員が職務中や休憩中に、一般的に見て「不適切だ」と判断されるような動画や写真を撮影し、個人のX(旧:Twitter)やInstagram、YouTubeなどにアップしたことが原因で炎上し、過去にはこの炎上が引き金となって閉店を余儀なくされた店舗もあります。
社員や関係者による内部告発
社員や関係者による内部告発も炎上原因のひとつとして挙げられます。とくに、企業に不満を持ったまま退職した元社員による投稿(口コミ)などが多く、「企業情報には育休の取得実績があると記載されているけれど、育休を取った人は左遷された」「採用ページには年間休日125日と記載されているけど、殆どの社員が休日出勤を強制されている」などといった書き込みが拡散されるケースがあります。
このケースは発言自体が炎上目的で行われているなど投稿者に悪意のある場合も多く、また多くの人が投稿者(=弱者)に対して同情しやすい内容となります。企業の対応によってはサービスや商品の不買運動に繋がる危険性も十分にありますので、企業側の事実確認をより丁寧に行った上で、(たとえ事実確認の上で内容に事実と異なる点があったとしても)企業として今後どういった対策を行うか誠意をもって全てのユーザーに示していく必要があります。
企業の不適切な発言やプロモーション
今年最も目立って炎上が起こりニュースとなったのが、この「企業の不適切な発言やプロモーション」が原因となったであるものと言えるでしょう。
企業の公式アカウントはユーザーと距離が近く担当者の人柄が伺えるようなつぶやきを行うものが人気といえますが、「企業のブランド」を背負っている事を忘れてしまったと受け取れる発言を投稿し、炎上してしまうアカウントも後を絶ちません。
企業による不適切な発言やプロモーションの炎上は、投稿の内容が企業の独りよがり(話題性や、良い意味での情報拡散を求めるあまり、受け取り手がどう捉えるかを把握していない・予測しきれていない)であったり、運用担当者の独断・個人的解釈による投稿であったりする事が原因となっています。
また、公式アカウントによる商品PRであるにもかかわらず、購買層のニーズを無視した内容であった場合も同じように炎上の原因となってしまう場合があります。
その他、発言やプロモーションの内容が宗教・人種に関わる発言であったり、性別・ジェンダーに関連する発言(決めつけ・固定観念なども含む)であったりする場合に炎上しやすく、これらに関わる商品を扱っている企業は十分に注意する必要があります。
近年の企業アカウントによる「ネット炎上」の事例
直近でも、X(旧:Twitter)を中心に企業の公式アカウントが炎上してしまう事件がニュースになりました。炎上の原因となりやすいテーマは、その時代において多くの人が関心を持つテーマである事が多いと言えます。
とくに、直近においては「雇用や職場環境に関する内容」「性・ジェンダーに関する内容」に関するユーザーの指摘や企業側の不適切発言が問題となって大きく炎上するケースが多く見られます。
「性別を理由にして勝手に説明会をキャンセル」で炎上
2020年7月には、ある専門商社の企業が、説明会の参加を希望する学生に対して「性別を理由に一方的に説明会の応募をキャンセルした」という内容ツイートが実際のメールのスクリーンショットとともに掲載され、炎上しました。
該当ツイートに添付されたスクリーンショットは、「説明会が男性向けの内容となっていること」「女性向けの説明会は別日程(検討中)であること」「”男性向け”である事を理由に説明会の予約を企業側が勝手にキャンセルしたこと」が示されるメールの文面が確認できるため、説明会自体が「男性限定」である事が伺えます。
厚生労働省では、男女雇用機会均等法に基づき、企業の雇用で「違法」と判断できるものについて以下のように説明しています。
・会社説明会等の開催案内の送付や受付の対象を男女のいずれかに限定する。
・総合職の会社説明会への参加は男性に、一般職の会社説明会への参加は女性に限定する。
・会社説明会等の実施日を男女別に設け、実施場所を変える、配布資料を変える。
・男女のいずれかに対してのみ追加的な説明を行う。
上記の内容の説明文が厚生労働省の公式サイトに掲載されている事実を示し、該当ツイートを見た別のユーザーがX(旧:Twitter)上で「企業の採用に対する方針が法律違反なのではないか?」との指摘がされました。さらに、就職・転職口コミサイトに投稿された悪い口コミのスクリーンショットなども投稿され、より大きく炎上しました。
このように、炎上の原因となる投稿をした本人はちょっとした愚痴のつもりだったとしても、詳細内容を見た他のユーザーが企業側の違法(または違法ギリギリ)な対応に気付いて指摘し、大きく拡散されて炎上するケースもあります。
「犯罪を想起させる」として炎上
2020年10月、老舗のおもちゃ企業の公式アカウントが、自社の看板商品(「小学5年生」という設定の人形)のプロモーションとして、当時Twitterのトレンドに入っていた「#個人情報を勝手に暴露します」というタグを用いて行ったツイートが炎上しました。
公式アカウントの担当者は同タグを付けた上で、「とある筋から入手した、某小学5年生の女の子の個人情報を暴露しちゃいますね…!」というツイートと共に商品(人形)の公式プロフィールなどを投稿。一連の投稿が「子供に対する犯罪を想起させる」として炎上しました。
この企業をフォローし、商品を購買するのは「子供を持つ家庭(両親)」であり、こういった子供を対象にした犯罪を、よりリアルに脅威として認識している人たちです。(元々「他人の個人情報」という、「ネタ」として気軽に取り扱って良い話題ではない上)こういった購買層に対して特にセンシティブに捉えられる内容を投稿してしまった事も、大きな炎上を呼んだ理由のひとつと考えられます。
参考:PRESIDENT Online タカラトミー「リカちゃん」炎上に学ぶ、致命的なNG投稿と話題になる投稿の紙一重の違い 企業公式の炎上が後を絶たない理由
「女性を性的に消費」と批判が殺到し炎上
2020年11月、ある老舗タイツメーカーの公式Twitter(当時)が11月3日の“タイツの日”にちなんで「#ラブタイツ」というハッシュタグを共に掲載した画像が、「ストッキングを着用した女性を性的な目で見ている」などと批判されて炎上しました。
公式Twitterアカウントが投稿した画像の中には、タイツやストッキングを着用した若い女性が自らスカートを捲って脚を見せたり、スカートの中が見えそうになっていたりするようなイラストも含まれており、男性から性的に見られる事に嫌悪感を抱いている女性を中心に様々なユーザーからの批判が殺到しました。
こちらのケースも、本来は実際にタイツやストッキングを購入するメインの層(基本的に女性が多い)に向けて、本来ならばタイツやストッキングの機能性などを重視してPRすべきところを、「『タイツを着用する女子』が好きな人」に向けたPRと感じられる施策を行ってしまった事が原因となって炎上に繋がったと考えられます。
参考:PRESIDENT Online 「アツギSNS問題」女性担当者でも、ジェンダー炎上してしまうたった一つの理由 「女性を性的に消費」と批判が殺到
ネット炎上に対する企業側の対策方法
それでは、企業がどのように炎上対策を行えば良いのかを考えていきましょう。炎上対策は大まかに言えば2種類の対策があり、ひとつめは「炎上を起こさない対策」もうひとつは「炎上を広めない(素早く収束に向かわせる)対策」となります。
ガイドライン策定や研修で「炎上の原因をつくらない」対策を
インターネットの炎上はいつ発生するかわからないとはいえ、発生率を抑えるために企業側にできる対策を最大限行うことは重要です。そこで、企業には「ソーシャルメディアガイドライン」を策定しておく事をおすすめします。
ソーシャルメディアガイドラインとは、企業に所属している従業員に対し、ソーシャルメディアの利用に関するルールや指針を明言化したものをいいます。会社が公式に運用しているコンテンツについて、投稿するコンテンツの内容、更新頻度、発信してはいけない内容、運用の姿勢などが会社全体の共通ルールとして記載されています。
作成したソーシャルメディアガイドラインを公式サイトに掲載し、企業の公式アカウントや自社社員の非公式(個人)アカウントの運用ルールを公開している企業もあります。ルールが明確にされている事で自社の従業員だけではなく顧客となるユーザーも安心して公式アカウントを利用(フォローなど)することができます。
また、折角ガイドラインを策定しても、自社の従業員が内容を把握していなくては意味がありません。そういった事態を回避するため、従業員を対象に研修を行っておくと安心です。
自社だけでは研修の内容が充実しないと考えられる場合は、誹謗中傷対策を行っている会社に研修を依頼するのも良いでしょう。
参加従業員の人数に合わせた研修や、過去の炎上事例・解決事例を踏まえた講習内容が期待できます。大人数が集まっての研修が難しいと判断される場合は、オンラインでの研修を行っている会社を探して依頼するのもオススメです。
ポイントは「早期発見」!ネット監視がオススメ
企業アカウントの炎上による被害を最小限に押さえるための対策のひとつが、「ネット監視」です。ネット監視は、インターネット上に掲載されている自社に関する情報を監視する作業のことで、監視箇所は検索エンジンのサジェストや検索結果に表示されているサイト、SNSやブログに投稿された内容、口コミサイトに投稿された内容など「炎上」の火種が潜んでいる様々な場所になります。
ネット監視の種類は、大きく分けて2通りの方法があり、ひとつは「ツールによる監視」もうひとつは「有人監視」となります。
ツールによる監視
ネット監視のひとつ、「ツールによる監視」は、主に風評被害の対策を行っている会社が提供している監視ツールを導入し、自社の人員で監視を行うものです。ツールは有人監視に比べ比較的安価で導入できるため、予算があまりかけられない場合や、監視がどういったものか体験してみたい場合にもすぐに導入できるメリットがあります。
基本的な監視ツールは監視対象のワード(自社名やサービス名、ブランド名など)を予めツールに登録しておき、ひとつのツールで様々な監視対象箇所を確認できるようにするものが多いため、様々なサイトを開いて監視を行うよりもずっと監視にかける時間を短縮する事ができます。
また、予め登録しておいた「監視対象のワード」と一緒に「風評ワード」が合わせて投稿された場合(「商品(食品)」+「まずい」、「店名」+「ぼったくり」など)、炎上発生の危険があるとして、担当者のメールアドレスなどに自動アラートが届くような機能を搭載しているツールもあり、いち早く危険な投稿に気付く事ができます。
有人監視による監視
もうひとつのネット監視である「有人監視」は、ネット監視の作業自体を風評被害対策の会社に任せてしまう方法です。
監視対象の投稿は監視のプロがひとつひとつ目視で確認を行うため、ツールによる監視より各段に精度が高いという所が最大のメリットと言えます。また、他社に監視作業を全て任せてしまえるため、自社の人員には自社でしか出来ない作業をしっかりと行ってもらう事が出来ます。
有人監視のサービス内容によっては、ツールでの監視が難しいとされているログインの必要な口コミサイトなどの監視も請け負って貰える場合があるので、「少しマイナーだけど、このサイトの監視は可能か?」と考えている企業も相談してみると良いでしょう。
まとめ|企業が炎上する原因を理解し、対策を万端にしておこう
SNSによって多くの情報がやり取りされる現代では、ユーザーに向けた企業のPRがしやすくなったという反面、悪い情報もすぐに拡散されてしまうリスクを伴うようになりました。企業の従業員だけではなく、高校生や大学生といった学生の悪ふざけによる炎上事例も多数報道されています。
インターネットにおける企業の「炎上」は、企業が全く想定していないタイミングで起こってしまう場合が殆どであるため、その時々における炎上原因を理解し、常日頃から対策を行っておくことが重要です。
企業として、「炎上の原因をつくらないための対策」「炎上が発生してしまった場合の対策」という2つの対策を万全にし、万が一の場合でも冷静に適切な対処ができるようにしておきましょう。
清水 陽平