「保険代理店からサイバー保険を勧められたけれど、うちが心配なのはSNSの炎上。これで足りるのかな?」
総務や経営の担当者なら、一度は持ったことのある疑問かもしれません。
炎上保険とサイバー保険は名前こそ似ていますが、補償が始まるきっかけがまったく違います。同じ「炎上」でも、片方では対象になり、もう片方では対象外になることがあります。
私は以前、エルプランニングのブランドセキュリティ事業部で、企業の検索結果やSNSの監視、風評対策に携わっていました。この記事では、企業向けの保険4種類の補償範囲を表で比べ、保険では取り戻せない損失への備え方までお伝えします。
- 炎上保険とサイバー保険の違いは補償が始まるきっかけです。サイバー事故を伴わない炎上は、サイバー保険では対象外のことが多いと考えておきましょう。
- 4種類の保険を比べると、差が大きいのは発動のきっかけ・ネット上の風評の拡大防止・売上減少の3項目です。
- 保険が補うのは主に対応のために出ていったお金で、売上の減少や検索結果に残った悪評は補償の外に残りやすくなります。
- 選ぶときは起きやすい事故→今の保険の特約→契約条件の順に確認し、炎上の定義と補償の対象期間を約款で確かめます。
- 保険で費用に備えつつ、監視と検索結果対策で被害の拡大と検索結果に残る傷に備える組み合わせが現実的です。

サイバー保険の風評対応は、対象となる事故との関連が前提です。従業員の不適切投稿など、炎上の原因に応じて補償を確認します。
炎上保険とサイバー保険の違いは「何が起きたら補償されるか」
2つの保険の違いは、補償の手厚さよりも「どんな出来事が起きたら補償が始まるか」にあります。
炎上保険(風評被害保険)は「ネガティブな情報の拡散」がきっかけ
炎上保険は、自社に関するネガティブな情報がSNSなどで拡散したとき(拡散しそうなときも含む)に、収束のためにかかった費用を補う保険です。「ネット炎上保険」「風評被害保険」とも呼ばれます。
企業向けの商品は2017年に大手損保が「国内初」として発売しました。当時の発表では、原因の調査や拡散の防止、メディアへの広告掲載などの費用が補償対象に挙がっています。
サイバー保険は「3つのサイバー事故」がきっかけ
サイバー保険は一般的に次の3つのサイバー事故による損害を補償します。
- 情報の漏えい、またはそのおそれ
- ネットワークの所有・使用・管理に起因する他人の業務の阻害
- サイバー攻撃に起因する他人の身体の障害や財物の損壊
補償の柱は、損害賠償、事故対応費用(原因の調査、データの復旧、コールセンター、見舞金など)、利益損害(システム停止による減収)の3つ。利益損害はオプションで付ける形の商品が多く見られます。「サイバーリスク保険」など商品名は違っても、考え方は共通です。
サイバー事故を伴わない炎上は、サイバー保険では対象外のことが多い
大手損保4社のサイバー保険の公開資料を確認した範囲では、炎上や風評に関わる補償・サービスは、どれも各商品が定める対象事故(情報漏えいやサイバー攻撃、またはそのおそれ)との関連を前提にしていました。商品によっては、自社がネット上で公表した内容による名誉毀損やプライバシー侵害も対象事故に含まれます。風評被害の拡大防止費用を「セキュリティ事故に関する」投稿に限ると明記した商品や、上位プランだけに付く商品もあり、「ブランドの劣化または風評被害」に起因する損害を補償しない(免責)とする商品もありました。
JNSA(日本ネットワークセキュリティ協会)の調査レポートも、国内の損保のサイバー保険は、風評被害やブランドイメージの低下といった「無形損害」を基本的に対象にしていないと説明しています。
従業員の不適切投稿や口コミの拡散から始まった炎上は、炎上をきっかけに補償が始まる保険の領域です。範囲は商品・契約で異なるので、約款と重要事項説明書で確かめてください。
表1:炎上のきっかけ別に、検討する保険
| 炎上のきっかけ | サイバー保険 | 炎上保険・監視付帯の補償 |
| 不正アクセスで顧客情報が漏れ、SNSで批判が広がった | 漏えい対応の費用は対象になりやすい。風評の拡大防止はプラン次第 | 商品による |
| ランサムウェアでサービスが止まり、不満の投稿が増えた | 調査・復旧の費用は対象になりやすい。身代金は対象外 | 商品による |
| 従業員の不適切投稿が拡散した | 対象外のことが多い | 主な検討対象(従業員の行為の扱いは要確認) |
| 商品・接客への不満の口コミが拡散した | 対象外のことが多い | 主な検討対象 |
炎上直後の動き方は、炎上対応ガイドにまとめています。
企業向け保険4種類の補償範囲を比較【一覧表】
ここからは保険会社ごとではなく「保険の種類」ごとに比べます。商品の改定が多く、会社名で並べた表はすぐに古くなるためです。
補償項目×4種類の比較表
○は「対象になりやすい」、△は「プランや条件次第」、-は「公開資料では確認できなかった」を表します。
表2:企業向け保険4種類の補償範囲
| 補償項目 | サイバー保険 | 個人情報漏えい保険 | 炎上保険(損保の商品) | 監視サービス付帯の補償 |
| 発動のきっかけ | 情報漏えい・不正アクセスなどのサイバー事故 | 情報の漏えい(おそれを含む)だけ | SNSなどでのネガティブな情報の拡散 | 炎上の発生(適用の基準は契約ごと) |
| 損害賠償 | ○ | ○(漏えいによるもの) | - | - |
| 原因調査 | ○ | ○(漏えいによるもの) | ○ | - |
| 弁護士・コンサルティング | ○ | ○(漏えいによるもの) | ○(コンサルティング) | ○(弁護士依頼。コンサルティングは状況次第) |
| コールセンター・見舞金 | ○ | ○(漏えいによるもの) | ○(コールセンター) | - |
| 謝罪広告・広告宣伝 | ○ | ○(漏えいによるもの) | ○ | △(状況次第) |
| 再発防止 | △ | △(漏えいによるもの・プラン次第) | - | ○ |
| ネット上の風評の拡大防止 | △(セキュリティ事故に関するもの・上位プラン) | △(漏えいによるもの・プラン次第) | ○ | - |
| 売上減少 | △(システム停止が条件のオプション) | 対象外(事業中断の喪失利益) | - | - |
| 検索結果・サジェストに残った情報の対策 | - | - | - | - |
※2026年10月時点で各社の公開資料を確認した範囲です。個人情報漏えい保険の列には、サイバー保険の「情報漏えい限定」プランを含みます。炎上保険の列は2017年の発売時の公表内容で、現在の取り扱いは保険会社・代理店にご確認ください。監視サービス付帯の列は当社エルプランニングの例で、対象になる費用は状況によって異なります。
差が大きいのは「発動のきっかけ」「ネット上の風評の拡大防止」「売上減少」の3行です。サイバー保険は項目が多いものの、どれも対象事故との関連が前提です。
個人情報漏えい保険は、サイバー保険の「漏えい限定版」
個人情報漏えい保険は、情報の漏えいに起因する賠償や費用に絞った保険です。大手損保では、サイバー保険の「情報漏えい限定」プランとして用意している例もあります。
IPA(情報処理推進機構)のプラクティス・ナビは、情報漏えい保険では「情報漏えい以外の被害は補償されない場合がある」とし、サイバー攻撃で事業が中断した場合の喪失利益も情報漏えい保険では補償されないと整理しています。ホームページの改ざんやシステム停止まで備えたいなら、サイバー保険の側で検討しましょう。漏えいを防ぐ社内対策はSNSで気を付けるべき!情報漏洩のリスクと対策をご覧ください。
ネット監視サービスに付く補償は「見張り」とセット
監視サービスに付く補償は、炎上を早く見つける仕組みと、費用の備えが一体になっているのが特徴です。当社エルプランニングのネット監視サービスでは、万が一炎上してしまった際の対応(弁護士依頼・再発防止等)の費用が、提携先の保険会社から最大500万円まで補償されます。
状況によっては、謝罪広告やコンサルティングの費用が対象になる場合もあります。上限額は口コミの投稿数に応じて変わります。2017年に損保会社と協力して始めた、補償付きの監視サービスがもとになっています。
どの事業者を検討する場合も、次の3点は確認しておきましょう。
- 保険会社が引き受ける補償なのか、事業者独自の保証なのか
- どんな状態を「炎上」と判定するのか
- 補償の上限額と、対象になる費用の範囲
保険で補償されにくい損失|売上減少・信用の低下・検索結果に残る悪評
保険が補うのは、主に「対応のために出ていったお金」です。
炎上による売上減少や信用の低下は、補償の対象外のことが多い
サイバー保険の利益損害は、システムやネットワークが止まったことによる減収が前提です。炎上で客足が遠のいた、取引先に契約を見直された、といった減収とは別物です。
損害保険事業総合研究所のレポート(2019年5月)も、評判の低下による企業価値や収益の損失は「定量化し保険化することは困難だと言われている」としています。多くのサイバー保険はお詫び広告などの費用は補償しても、売上・利益の減少や株価の下落までは補償していない、というのが同レポートの見立てです。
評判の低下が経営に与える影響はレピュテーションリスクとは?で解説しています。
検索結果やサジェストに残った悪評は、補償期間の外に残りやすい
検索結果やサジェストに残った情報への対策費用は、「補償の対象になるか」と「いつまでの費用が対象か」を分けて考える必要があります。今回確認した範囲では、こうした対策費用を補償対象と明記した現行の保険商品は見当たりませんでした。
期間の面では、事故をきっかけに「一定期間内に生じた」費用を補償する形の商品があります。炎上の話題は数週間から数か月で落ち着いても、検索結果やサジェストにはもっと長く跡が残ることがあり、その期間内に収まらないこともあります(収束までの日数は業界別の平均炎上日数の記事を参照)。
ブランドセキュリティ事業部にいた頃も、時間がたってから「社名を検索すると、まだ当時の記事が出てくる」というご相談を受けることがありました。

保険で事故対応の費用が戻っても、失った売上や信用まで回復するとは限りません。補償範囲と残る損失を分けて備える必要があります。
自社に合う炎上保険・サイバー保険の選び方|契約前の確認ポイント
選ぶ順番は「自社で起きやすい事故」「今入っている保険」「契約の条件」の3段階です。
「自社で起きやすい事故」から優先順位を決める
日本損害保険協会の2025年の調査では、中小企業で損害保険の契約に関わる人のうち、勤務先がサイバー保険に加入していると答えたのは8.8%でした。
一方、警察庁の発表によると、令和8年上半期のランサムウェアの被害報告は123件で、統計を取り始めた令和2年下半期以降、半期として最多でした。被害組織へのアンケート(有効回答35件)では、復旧に総額1,000万円以上かかった組織が全体の6割を占めています。優先順位は、自社の特徴から考えると整理しやすくなります。
表3:自社の特徴別に、優先して検討したい保険
| 自社の特徴 | 優先して検討したい保険 |
| 顧客の個人情報を多く扱う(会員・EC・医療・人材など) | サイバー保険(漏えいだけなら個人情報漏えい保険も選択肢) |
| 業務やサービスがシステムに大きく依存している | サイバー保険(利益損害のオプションも検討) |
| 店舗・接客が中心で、口コミやSNSで話題になりやすい | 炎上保険・監視付帯の補償 |
| 公式SNSや採用広報の発信が多い | 炎上保険・監視付帯の補償 |
| 取引先からセキュリティ対策や保険加入を求められている | サイバー保険 |
契約前に確認したい5つのポイント
見積もりの段階で、次の5点を確かめておきましょう。
- 「炎上」「事故」の定義と、誰がどう判定するのか
- 補償の対象期間(事故の発覚から何日以内の費用か)
- 支払限度額と、項目ごとの内側の上限(サブリミット)
- 補償されない場合(免責事由)。自社の投稿で他人の名誉を傷つけた場合の賠償は、商品によって対象にも対象外にもなります
- 緊急時サポートを使える条件(保険金が支払われる場合に限る商品もあります)
新しく入る前に、今入っている保険の特約を確かめる
事業者向けの総合保険や賠償責任保険に、サイバー事故や弁護士費用の特約がすでに付いていることがあります。特約の補償が基本の限度額の内側で支払われる設計だと、上限を食い合うこともあります。まずは契約中の保険会社や代理店に確認しましょう。
保険が埋めるのは出ていったお金|検索結果に残る傷への備え方
保険はお金の備え、監視は広がる前に気づくための備え、検索結果対策は残った傷を戻すための備え。それぞれ役割が違います。
炎上の跡は、収束したあとも社名検索とサジェストに残る
ブランドセキュリティ事業部にいた頃、印象に残っている案件があります。話題が落ち着いてかなりたつのに、社名で検索するとネガティブな情報が上位に並び、採用活動や営業活動に支障が出ていました。
入社を考える人も、取引を検討する会社も、まずは社名で検索します。費用が保険で戻っても、その検索画面は変わりません。検索結果に残った風評への対策は風評被害対策サービスで、費用の目安は風評被害対策の費用はいくらかかる?で紹介しています。
保険・監視・検索結果対策を組み合わせて備える
保険は起きたときの対応費用を補います。監視は炎上の兆候を早くつかみ、事実確認や初動対応につなげることで、被害が広がるのを抑えやすくします。検索結果対策は、残った情報が社名検索の1ページ目を占め続けないようにするためのものです。
エルプランニングの監視は、ツールによる自動監視と人の目による有人監視の組み合わせです。ツールだけでは判断できない文脈やニュアンスも踏まえて確認できます。監視の進め方は企業の炎上対策監視とSNS監視をする必要性は?も参考にしてください。
「保険に入ったから安心」ではなく、「保険で費用に備え、監視と検索結果対策で傷を小さくする」。私はこれがいちばん現実的な備え方だと思っています。
よくある質問(FAQ)
Q: 従業員の不適切投稿で炎上した場合も、炎上保険で補償されますか?
商品によって扱いが分かれます。2017年の取材では、炎上と認められれば雇用形態にかかわらず従業員の行為による炎上はすべて対象と答えた損保がありました。一方、2019年の報道では、別の損保の弁護士費用の特約で、自社の従業員による不適切な動画の投稿は「第三者でない」ため対象外とされています。どちらも当時の内容なので、約款で確認してください。
Q: サイバー保険と炎上保険は、両方に入る必要がありますか?
一律には言えません。どちらを優先するかは、自社で起きやすい事故次第です。個人情報やシステムへの依存が大きいならサイバー保険、店舗・接客やSNSの発信が多いなら炎上系の補償から検討すると考えやすくなります。
Q: 炎上保険やサイバー保険の保険料は、どのくらいかかりますか?
売上規模や業種、支払限度額、セキュリティ対策の状況などで決まるため、一律の相場は示しにくいのが実情です。ネット上の金額には数年前のものも多いので、見積もりで確認してください。
Q: ランサムウェアの身代金は、サイバー保険で補償されますか?
日本損害保険協会は、ランサムウェアの被害で支払った身代金はサイバー保険の対象にならないと説明しています。原因の調査やデータの復旧にかかる費用は、補償の対象になりやすい項目です。
Q: 保険に入っていれば、炎上した投稿を削除してもらえますか?
保険は費用を補う仕組みで、投稿を消してくれるものではありません。削除の依頼は、自社で申し出るか弁護士を通じて行います。弁護士への相談費用を補償する商品はあります。弁護士費用の目安は誹謗中傷の解決を弁護士に依頼する時の費用と知っておきたいポイントをご覧ください。
まとめ
炎上保険とサイバー保険の違いは、補償が始まるきっかけです。サイバー事故を伴わない炎上はサイバー保険では対象外のことが多く、炎上そのものに備えるなら、炎上保険や監視サービスに付く補償を検討することになります。
そして保険が埋めるのは、対応のために出ていったお金です。売上の減少や、検索結果・サジェストに残った傷は保険の外に残りやすい。保険の加入や補償の相談は契約中の保険会社・代理店へ。炎上を早く見つける監視はネット監視サービス、検索結果に残った風評への対策は風評被害対策サービスで、エルプランニングがお手伝いします。投稿の削除依頼は、自社で申し出るか弁護士に依頼しましょう。

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