IPO準備室の机の上は、監査対応、内部統制、規程の整備、予実管理で埋まっています。そのなかで「社名を検索したときに何が出てくるか」は、誰の担当でもないまま後回しになりがちです。
こんにちは。エルプランニングのコンテンツマーケティングチームでチーフライターをしています。入社してから4年間はブランドセキュリティ事業部で、企業の検索結果の監視やブランドSEOを担当していました。当時、上場を控えた企業から「申請が近いので急いで整えたい」という相談を受けたことが何度かあります。ただ、検索結果やサジェストは数週間で変わるものではありません。
- 東証の審査項目に「風評」はありませんが、報道や外部からの情報提供で未発覚の事実が判明すれば審査期間が延びる可能性があります。
- 標準審査期間はグロース2か月、スタンダード・プライム3か月で、検索結果やサジェストの改善が審査中に間に合うとは限りません。
- N-3期〜N-2期は棚卸し、N-1期は検索結果1ページ目とサジェストの整備、申請期は説明できる記録づくりに集中します。
- 東証の情報受付窓口には社員を中心に年間100件以上の通報があり、社内の受け皿づくりが風評の予防にもなります。
- 上場後は社名に関心を持つ人の層が広がるため、ツール監視と有人監視を上場前から常設しておきます。

申請直前では検索結果を整えきれない場合があります。社名だけでなく代表者名も確認し、問題の是正と説明できる記録づくりを進めます。
上場審査でネット上の風評やサジェストは見られるのか
公式の審査項目に「風評」の文字はない
東京証券取引所の新規上場ガイドブック(グロース・スタンダード・プライムの3編、2026年9月15日更新版)にも、日本証券業協会の「有価証券の引受け等に関する規則」にも、「風評」「口コミ」「サジェスト」という審査項目はありません。
ただし、ガイドブックには次の注記があります。標準審査期間は特段の問題が認められないケースを前提としていて、「申請会社に関する報道や外部からの情報提供を含め、新たに未発覚の事実等が判明した場合など」は審査期間を延長する可能性がある、というものです。原文はJPXの新規上場ガイドブック(グロース市場編)で確認できます。
審査経験者が語る実態|取引所も証券会社もネットを確認している
2025年2月に開かれた、IPO審査の経験者が登壇したフォーラムのレポートに、こんな発言が載っています。
東証の上場審査を経験した登壇者は、「取引所は可能な限りインターネット上をチェックし、気になることがあれば質問して確認します」と話しています。証券会社側の登壇者は「証券会社も経営者からの発信はすべて見ています」と述べ、匿名掲示板のような「匿名かつ信ぴょう性が低い情報すらも確認しています」と語っています。
登壇者個人の発言で、取引所の公式見解ではありません。それでも、見られている前提で準備するほうが安全です。
問われるのは書き込みそのものより「背景の事実」と「説明できるか」
審査期間が延びる引き金は「未発覚の事実等が判明した場合」です。書き込みの背後に労務問題や法令違反のような事実があるか、会社がそれを把握して説明できるか。ここが論点になります。
| ネット上の書き込みの例 | 関連しうる審査の観点 |
| 「残業代が出ない」「ブラック」など労務系の投稿 | 労務管理、コンプライアンス体制 |
| 反社会的勢力との関係を疑う投稿 | 反社会的勢力との関係の確認(対象は役員・株主・取引先等の履歴や属性) |
| 強引な営業や誇大な広告への苦情 | 事業の適法性および社会性 |
| 経営者の過去のSNS発言 | 社長面談でのコンプライアンスに対する方針の確認 |
ブランドセキュリティ事業部にいたころ、審査で何度も説明を求められて初めて自社の検索結果を見直した企業を見てきました。聞かれてから調べるのと、把握したうえで答えるのとでは、伝わる印象がまるで違います。
風評・サジェスト対策はなぜ「今すぐ」なのか|申請直前では間に合わない理由
標準審査期間は2〜3か月。その間に検索結果は変えられない
東証の標準審査期間は、グロース市場が2か月、スタンダード市場とプライム市場が3か月です。いずれも「特段の問題が認められないケース」が前提です。
主幹事証券会社との準備や確認は、上場申請の前から進みます。開始時期や日程は会社ごとに異なりますが、「見られる期間」は申請のかなり前から始まっています。審査が始まってから検索結果を整えようとしても、2〜3か月で整えきれるとは限りません。
検索結果とサジェストの改善には月単位の時間がかかる
私が担当していたブランドSEOは、検索結果の1ページ目に正確でポジティブな情報を配置していく仕事でした。最初に覚えたのは、結果が出るまでの時間の長さです。
サジェストのように早ければ1〜2か月で変化が見えるケースもありますが、対象や施策によって期間は大きく異なります。月単位で見ておくほうが安全です。「申請まであと2か月なので何とかしてほしい」という相談は、当時いちばん心苦しいものでした。
サジェスト対策の考え方はサジェスト対策で企業を守る!仕組みとやり方をわかりやすく解説、検索結果全体の整え方は逆SEO対策とは?目的や方法、費用などについて詳しく解説にまとめています。
上場が近づくほど、自由な情報発信もしにくくなる
上場が近づくほど、情報発信のハードルは上がります。未公表の情報が混ざっていないかを一つひとつ確認し、社内の承認を通してからでないと外に出せなくなるからです。役員や社員のSNS、家族との会話まで含めて、会社が発表していない情報を外に出さない体制が求められます。
採用ページや導入事例のような通常の広報が止まるわけではありませんが、これまでのような気軽さでは進めにくくなります。
だからこそ、採用ページ、社員インタビュー、代表メッセージ、導入事例といった「検索結果の1ページ目を支える発信資産」は、N-2期からN-1期のうちに積み上げておきたいところです。守りの対策と攻めの発信は、同じ時間軸で進めます。
【期別ロードマップ】N-3期から申請期までにやるべき風評・サジェスト対策
「N-3期」「N-2期」は監査法人や日本公認会計士協会が使う実務上の呼び方で、JPXの公式表記は「直前々期」「直前期」「申請期」です。日本公認会計士協会のガイドブック(2026年2月公表)の整理をもとに、各期の位置づけと対策を表にしました。
| 時期 | 準備全体での位置づけ | 風評・サジェスト対策でやること |
| N-3期以前(直前々期以前) | 監査を受け入れられる管理体制の構築 | 社名・サービス名・代表者名の検索結果とサジェストの棚卸し |
| N-2期(直前々期) | 上場会社と同様の管理体制の整備・運用 | 書かれている内容の仕分けと、実態の是正 |
| N-1期(直前期) | 管理体制を期首から運用。主幹事証券の審査が本格化 | 検索結果1ページ目とサジェストの整備、発信資産の蓄積、監視体制の立ち上げ |
| N期(申請期) | 上場申請、取引所審査 | 説明できる記録づくり。監視は止めない |
N-3期〜N-2期|まず「何が書かれているか」を棚卸しする
最初にやるのは、対策ではなく把握です。
- 社名、サービス名、代表者名、役員名で検索し、1〜2ページ目とサジェスト、関連検索を記録する
- 「社名 評判」「社名 やばい」のように、取引先や審査する側が打ち込みそうな組み合わせも確認する
- 転職口コミサイト、匿名掲示板、Googleマップの口コミ、SNSを洗い出す
- 見つかった内容を「事実無根」「事実だが古い」「事実で現在も続いている」に仕分ける
「事実で現在も続いている」ものは、風評対策の前に実態の是正が先です。社長や役員の個人名も棚卸しの対象に含めてください。個人名の対策は経営者個人の風評被害対策|会社の対策だけでは社長の名前は守れないで詳しく書いています。
N-1期|検索結果の1ページ目とサジェストを整える
主幹事証券会社の引受審査が本格化する時期です。事実無根の投稿には、削除依頼や法的な対応を弁護士と連携して検討します。一方で、事実に基づく低評価や過去の報道のように、削除できない情報もあります。これらにはブランドSEOで向き合います。
正確で新しい公式情報を1ページ目に増やし、古い情報の相対的な位置を下げていく考え方です。
攻めの発信資産もこの時期に積みます。採用への効果も期待できます。風評と採用の関係は募集しても人が来ない会社に共通する見えない原因にまとめています。あわせて、ツール監視と有人監視を組み合わせた体制を立ち上げておきます。
申請期|審査で聞かれても説明できる記録を残す
申請期は、新しい対策を打つ時期ではなく、説明の準備をする時期です。
- いつ、どこに、何が書かれ、会社としてどう事実確認し、どう対応したかを時系列で記録する
- 監視は止めず、審査期間中に新しい報道や書き込みが出たら主幹事証券会社に共有できる状態にしておく
- 情報発信は主幹事証券会社、弁護士と相談しながら進める
東証のガイドブックによれば、グロース市場の審査でのヒアリングは申請時を除いて3回が標準です。質問を受けてから調べ始めるのでは間に合いません。
風評の火種を元から断つ|退職者の書き込みと外部への通報に備える社内体制
東証の情報受付窓口には年間100件以上の通報が寄せられている
JPXは「上場準備会社の上場適格性に関する情報受付窓口」を公式に設けています。対象は「粉飾決算その他の上場適格性に重大な影響を及ぼす事項」で、提供された情報は上場審査に役立てると明記されています。詳しくはJPXの情報受付窓口のページをご覧ください。
JPXが役員向けに公開している資料「IPOにおける不祥事予防に向けて」(2026年)には、この窓口に「上場準備会社の社員を中心に年間100件以上の通報が寄せられており、残念ながら、当窓口への通報から上場準備会社の不正が発覚する事例も後を絶ちません」とあります。100件以上は通報の件数で、不正が見つかった件数ではありません。
口コミサイトの書き込みと通報は、同じ不満から生まれる
転職口コミサイトへの投稿と取引所への通報は、動機が同じとは限りません。ただ、社内で解決されない労務問題や不適切な行為が、どちらの入口にもつながることがあります。社内に声の受け皿を作ることは、審査対応であると同時に、ネット上の風評の予防でもあります。
労務の是正も同じ文脈です。日本公認会計士協会のガイドブックは、未払残業代を「会社の簿外債務」と説明しています。その一方で、東証のガイドブック(スタンダード市場編)は、労働基準監督署の是正勧告について「過去に一度是正勧告を受けたという事実が、直ちに上場審査上の判断に結びつくものではありません」としています。
役職員のSNSルールと研修を上場準備のタスクに組み込む
審査経験者が「過去の発言が問題になるケースも少なくありません」と語っている以上、役職員のSNSは上場準備のタスクに入れておくべき項目です。
- 経営者・役員の過去のSNS投稿を見直す
- ソーシャルメディアポリシーを整備し、上場準備中の情報管理ルールを周知する
- 役職員向けのSNSリスク研修を実施する
「上場準備中は何を発信してはいけないのか」を、全員が同じ言葉で説明できる状態にすることが目的です。

上場後に備える|株式掲示板と社名検索の急増を見据えた監視体制
上場すると、社名を検索する人の層と数が変わる
上場すると、個人投資家やメディアなど、社名に関心を持つ人の層が広がります。株式掲示板のような、上場企業ならではの書き込みの場も監視対象に加わります。
当社エルプランニングが2025年12月に実施した意識調査(検索候補と関連検索の両方を認知している全国10〜60代以上の男女500名、インターネット調査)では、企業名などを検索した際にネガティブな検索候補を見たことがある人は57.4%、ネガティブな検索候補が表示されていた場合に企業の第一印象が悪くなると答えた人は55.4%でした。
一般消費者の自己申告による調査ですが、検索候補が第一印象に影響しうることはうかがえます。詳細は検索候補に並ぶ「ネガティブワード」、消費者は実際どう感じている?でご覧いただけます。
虚偽の情報で株価を動かす行為は「風説の流布」にあたる
有価証券の売買等のため、もしくは相場の変動を図る目的をもって、うわさや合理的な根拠のない風評を不特定または多数の人に伝えることは「風説の流布」として金融商品取引法第158条で禁止されています。
適用事例として、インターネット上の電子掲示板に虚偽の情報を掲載するケースが挙げられています。詳しくは証券取引等監視委員会の「不公正取引について」を参照してください。
罰則は、通常の場合で個人が10年以下の拘禁刑もしくは1,000万円以下の罰金(またはその両方)です。利益を得る目的で相場を変動させて取引するなど一定の場合はさらに重くなり、法人の業務に関して違反があれば法人にも7億円以下の罰金が科されます(金融商品取引法197条・207条)。
ただし、成立には取引や相場変動の目的が必要です。上場後の誹謗中傷がすべて風説の流布にあたるわけではありません。
監視体制は上場してからではなく、上場前から常設しておく
上場後に初めて監視体制を作ると、最初の大きな波である上場日前後に間に合いません。N-1期に立ち上げた監視を、そのまま上場後の常設体制に移すのが現実的です。
当社が勧めているのは、ツール監視で広く拾い、有人監視で文脈とリスクの度合いを判断するハイブリッドの体制です。監視の考え方は風評監視はなぜ必要?ネット・SNSを監視するメリットや方法を紹介にまとめています。
よくある質問(FAQ)
Q: ネガティブなサジェストがあると上場できないのですか?
サジェストだけを理由に上場できない、と定めた公式資料は確認できていません。問われるのは、その言葉の背景に事実があるかどうか、会社がそれを把握して説明できるかどうかです。
Q: 転職口コミサイトの低評価や「ブラック企業」という書き込みは上場審査に影響しますか?
口コミの点数が審査項目になっているわけではありません。ただ、労務管理は引受審査で確認される項目で、未払残業代は簿外債務として決算にも影響します。書き込みの内容が現在も続いている事実なら、口コミ対策より先に実態の是正が必要です。
Q: IPO準備の風評・サジェスト対策は、いつから始めればいいですか?
棚卸しはN-3期からN-2期、検索結果とサジェストの整備は主幹事証券会社の審査が本格化するN-1期までに、が目安です。これはエルプランニングとしての提案で、時期を定めた公式資料はありません。
Q: 書かれている内容が事実の場合、削除を依頼すると隠蔽になりませんか?
事実無根の投稿への削除依頼は正当な対応です。事実に基づく書き込みは、消そうとするより、是正して、現在の正確な情報を発信し、経緯を説明できる状態にするほうが会社を守ります。私自身、消すことを最優先にした対策がうまくいった例をあまり見ていません。
Q: 社長や役員の個人名で出てくるネガティブ情報も対策が必要ですか?
必要です。社名と社長名の検索結果は別物なので、個人名でも棚卸しをしてください。進め方は経営者個人の風評被害対策で解説しています。
まとめ
上場審査に「風評」という項目はありません。それでも審査する側はネットを見ていますし、報道や外部からの情報提供で未発覚の事実が判明すれば、審査期間は延びる可能性があります。
検索結果とサジェストは、申請直前に着手して整えきれるとは限りません。棚卸しは今日からでも始められます。社名と代表者名で検索して、1ページ目とサジェストを記録する。
目指すのは「消す」ことではなく、是正して、説明できて、正しい情報が1ページ目にある状態です。棚卸しや検索結果の整備に不安があれば、エルプランニングの風評被害対策にご相談ください。上場後の常設監視はネット監視サービスでご案内しています。

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