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インターネット上でおこる人権侵害|予防と対処の方法を確認しておこう

インターネット上でおこる人権侵害|予防と対処の方法を確認しておこう

現在、インターネット上でおこる様々な人権侵害行為が問題となっています。正しいインターネットの利用の仕方を理解しておらず、知らず知らずのうちに誰かの人権を侵害してしまう加害者になってしまう人もいますし、些細な出来事をきっかけに不特定多数の匿名アカウントから誹謗中傷を投げつけられて人権侵害を受けてしまう事もあります。

本記事では、インターネットにおける人権侵害を中心に取り上げ、その現状について解説するとともに、自分が加害者になってしまわないために気を付けたい事や、もしも被害者になってしまった時に相談できる機関などについて記載しています。

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インターネット上の人権侵害とは?

インターネット上の人権侵害とは?

そもそも、「人権侵害」の定義が曖昧ではないか?と考える人もいるのではないでしょうか。「人権侵害の定義」について、法務省の公式ホームページでは次のように解説しています。

「人権侵害行為」は,人権を「違法に」侵害する行為,すなわち違法行為であり,具体的には,憲法の人権規定に抵触する公権力等による侵害行為のほか,私人間においては,民法,刑法その他の人権にかかわる法令の規定に照らして違法とされる侵害行為がこれに当たることになります。

引用:法務省:Q7 設置法案が定める「人権侵害行為」とは,どのようなものですか。「人権侵害行為」の定義は曖昧ではありませんか。

人権擁護推進審議会答申の中で「人権」は、「人々が生存と自由を確保し、それぞれの幸福を追求する権利」として定義されているので、人種や民族、ジェンダーなどを理由にした差別的な扱いや嫌がらせ、パートナーやストーカーからの暴力、学校・職場等におけるいじめなどが「人権侵害」に当てはまるといえます。

とりわけインターネットにおいては、例えば、他人への誹謗中傷(名誉毀損や侮辱)やプライバシーの侵害が深刻な人権侵害問題として度々取り上げられています。

参考:法務省:人権尊重の理念に関する国民相互の理解を深めるための教育及び啓発に関する施策の総合的な推進に関する基本的事項について(答申)

日本におけるインターネットの利用者数は90%に迫っている

総務省が令和2年5月に発表した「令和元年通信利用動向調査の結果」という資料によると、インターネット利用者の割合は全体の89.8%であるとされており、特に6~12歳や60歳以上の年齢層で増えているという結果が出ています。スマートフォンの個人保有割合も合わせて増加傾向にあり、現状でも67.6%と高い数値を記録しています。

インターネット上の人権侵害問題に深く関わりのあるSNSについては、全体で見てもインターネットを利用している人の70%近くがSNSに登録しているという結果が出ています。とくに注目したいのは、13~19歳の時点で既に80%以上の人がSNSに登録しているという点です。

インターネット上の掲示板 やSNS(タイムラインやトークグループ等)などに特定の子どもの悪口や個人情報を書き込むといった「ネットいじめ」が度々話題になりますが、現状80%以上の未成年がこのリスクを背負っていると見る事もできます。

インターネットにおける人権侵害の現状

インターネット上の人権侵害報告に関する事件数
参考資料:法務省 報道発表資料 平成31年及び令和元年における「人権侵犯事件」の状況について

法務省が発表している資料によると、平成31年および令和元年はインターネット上の人権侵害報告に関する事件数が1,985件と直近10年間の中で2番目に多い数値を記録したとされています。

そのうち、プライバシーの侵害に関する事案が1,045件、名誉毀損に関する事案が517件となっていて、このふたつの事案の合計だけで1,562件となり、全体の80%近くを占めているという事が分かります。

未成年の被害例が深刻化

今の30~40代であれば、小学生の時に個人の携帯電話を所持していた人は数えるほどであったと言っても良いでしょう。しかし、現代は小学生が個人のスマートフォンを所有していても珍しくない時代です。内閣府が毎年発表している「低年齢層の子供のインターネット利用環境実態調査」にも、以下のような調査結果が資料として掲載されています。

○ 青少年の93.2%が、インターネットを利用していると回答。
○ インターネットを利用する機器は、スマートフォン(62.8%)、携帯ゲーム機(30.3%)、タブレット(30.2%)が上位。
○ 学校種別でみると、高校生の99.0%がインターネットを利用していると回答。

引用:「平成30年度 青少年のインターネット利用環境実態調査 調査結果(概要)」
※青少年の対象は満10歳~満17歳までとする

○ 低年齢層の子供の56.9%がインターネットを利用。年齢が高いほど利用率も高くなる傾向にある。
○ インターネットを利用する機器は、スマートフォン(33.1%)、タブレット(26.7%)、携帯ゲーム機(15.2%)が上位。

引用:「平成30年度 青少年のインターネット利用環境実態調査 調査結果(概要)」
※低年齢層の対象は0歳~満9歳までとする

こういった結果に伴い、未成年がインターネットの人権侵害の被害者となってしまう事案が増加しました。SNSやインターネット掲示板、学校裏サイトなどに特定の子どもの悪口や個人情報を書き込むなどといった「ネットいじめ」においては、未成年が被害者にも加害者にもなってしまうリスクがあるものです。

とくに、近年において未成年が陥りやすいインターネット上の人権侵害トラブルとしては、以下のような例が挙げられます。

  • メッセージアプリ・SNSなどでの悪口や仲間外れ
  • 友人同士での悪ふざけ動画などの不適切な投稿
  • コミュニティサイトなどを介した出会い系トラブル
  • インターネットを介したストーカー被害

現代の未成年の中には、インターネットに対してあまり警戒心を持っていない人もいます。例えば、自分の顔写真や露出の多い写真、身内同士での悪ふざけを撮った動画などを自分のSNSアカウントにアップロードし、インターネット上で誰でも見える状態にしてしまう未成年もいます。

普通なら「お互いに認知している人間」しか知り得ないパーソナルな情報をインターネットに自ら流出させてしまった事がきっかけで、ストーカー被害などのトラブルに発展してしまう例も増加しています。

また、身の回りに危害が及ばなくても、インターネット上に迂闊な発言をしてしまった事によって、未成年であるにも関わらず大勢のユーザーから心無いバッシングを受けてしまう場合もあります。逆に、インターネット上でのルールを熟知していないまま発言をし、自分が相手の人権を侵害していることに気付いていない場合もあります。

もちろん、以上に記載している人権侵害トラブルのリスクは未成年だけが抱えているものではありません。

しかし、これらの現実を考慮し、学校や家庭内でも未成年がインターネットを利用する際のルールをしっかり把握できる環境を整えるとともに、もしも人権侵害にあたるトラブルに巻き込まれてしまった際にどのような機関に相談すべきかを共有しておく事も大切であると言えます。

人権侵害を防ぐインターネットの使い方

人権侵害を防ぐインターネットの使い方

インターネット上での人権侵害に関わってしまわないために、ホームページやSNSなどを利用する上で普段から気を付けなければいけない事を確認しておきましょう。

インターネットへ人権侵害に繋がる投稿をしてしまわないために

インターネット上で人権侵害に繋がる投稿をしないために、自分で気を付けられることはどんな事があるのでしょうか?東京都総務局人権部のホームページでは、「人権を侵害しないために -インターネットにおける人権侵害を防ぐチェックポイント-」として以下の4点を挙げています。

  • 差別的な発言や誹謗・中傷及び人権侵害につながる情報は書き込まない
  • うそや不確かなことは書き込まない
  • なりすまし行為はしない
  • 個人情報は書き込まない

参考:東京都総務局人権部 じんけんのとびら | インターネットと人権

現代において、インターネットの人権被害が起こりやすい場所としてとてもメジャーであるのがSNSです。とくに、Twitterは投稿の手軽さから、うっかり深く考えずに思った事をそのまま投稿してしまう人もいます。

インターネットへの書き込みは、基本的に全世界の誰でも閲覧できる可能性の高いものとなります。SNSなどには鍵アカウント(一定の人のみ閲覧可能にする機能)などもありますが、閲覧可能な人にスクリーンショットなどを撮られてしまい、別の公開アカウントに投稿されてしまうという恐れもあります。

さらに、一度インターネットに投稿されてしまった文章や画像は、それから何年経ったとしても検索エンジンなどで調べれば情報が簡単に検索可能な状態になります。投稿を行う前に一度文章を読み返し、人権侵害に繋がるような言葉が含まれていまいか確認するようにしましょう。

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インターネットは完全な匿名ではない

また、インターネットはある程度の匿名性はあるものの、完全な「匿名」ではない事も覚えておきましょう。インターネットに投稿された内容が名誉毀損やプライバシー侵害をはじめとした法律に違反していると判断された場合、その被害者が希望すれば投稿の発信者を特定する事が可能です。

インターネットという、基本的に匿名で顔の見えない繋がりだとしても、ディスプレイの向こう側には自分と同じような人間がいるという事をしっかりと意識し、たとえ匿名であっても責任を持った発言をすることが大切です。

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プロバイダに削除の依頼を出す

基本的に、インターネットでの書き込みは匿名で行われているため、見た目には誰が違法な書き込みをしたのかは分かりませんし、仮に書き込みをした人が分かっている場合でも、削除を求めたとしても対応して貰えない場合が多いでしょう。

インターネット掲示板やブログ、SNSなどに名誉毀損やプライバシー侵害、差別的な書き込みなど人権侵害と認められる投稿があった場合、被害を受けている本人はそのサイトの管理者(プロバイダ)に削除を求める事が出来ます

削除申請の方法に関しては、インターネット掲示板やSNSなどによって異なりますので、必ず利用規約を熟読し、各サイトが提示する方法に則って申請を行いましょう。

法務省の窓口に相談する

法務省には、相談内容別に人権侵害に関する相談の窓口が複数あります。以下に記載した「女性の人権ホットライン」や「子どもの人権100番」は、深刻な相談が多い女性や子ども関係の相談に特化した窓口です。

その他にも、国外から来日し日本語が話せない人向けの専用相談ダイヤル「外国語人権相談ダイヤル」といった、英語や中国語、韓国語をはじめとした10ヵ国後に対応した電話相談ダイヤルが用意されていたり、多くの人が活用しているSNSであるLINEを用いた相談窓口が用意されたりしています。

女性の人権ホットライン

女性の人権ホットライン
引用:法務省公式サイト 女性の人権ホットライン

女性の人権ホットラインは夫やパートナーからの暴力(DV)やリベンジポルノ、職場でのいじめ・セクシャルハラスメント、ストーカー、AVの出演強要など、女性をめぐった人権侵害の被害を相談できる窓口です。

実際に女性の人権ホットラインへの相談等をきっかけに法務省が救済措置をとった事例としては2例が紹介されています。

  • 夫の妻に対するDV
    子どもとともにDVから逃れた女性を迅速にシェルターへ保護してもらえるよう各関係機関との連携を執り行った。

  • インターネット上のプライバシー侵害及び名誉毀損
    元交際相手の男性からリベンジポルノ被害を受けた女性の、流出した画像やプライバシーを侵害している情報の削除要請を行った。

参考:法務省公式サイト 女性の人権ホットライン

とくに、リベンジポルノの被害例に関しては、「流出した画像に関して被害女性からサイト管理人へ削除申請をしても通らなかったものが法務省からの削除要請で削除された」という事例であるため、現在同じ悩みを抱えている方にも参考になるかもしれません。

子どもの人権110番

子どもの人権110番
引用:法務省公式サイト 子どもの人権110番

子どもの人権110番は、「いじめ」や体罰、不登校、虐待などといった子どもをめぐる人権侵害の被害について相談できる窓口です。子ども自らが助けを求めやすいようなメッセージを掲載していたり、「子どものSOS-e メール」などメールでも気軽に相談できるような配慮がされていたりします。

もちろん、被害を受けている子どもだけではなく、親などの大人からの相談も受け付けています。

子どもの人権110番への相談等をきっかけに法務省が救済措置をとった事例としては、下記のような3例が紹介されています。

  • 学校におけるいじめ事案
    学校内で「いじめ」を受けているとされる被害生徒の保護者が子どもの人権110番へ相談し、法務省の担当官が仲介する事によって保護者の学校への対応の不満や「いじめ」そのもの解決に至った。

  • 母親の子に対する虐待
    母親から暴力を受けていると被害者児童本人からの相談を受けて調査を行い、法務省の働きかけで学校や児童相談所の見守り体制を整えた。

  • 親の子に対する監護懈怠事案
    被害児童が親から十分な食事を与えられていない(育児放棄)として、児童の同級生の親から相談があった。法務省から母親に対して食生活について助言し、改善に至った。

参考:法務省公式サイト 子どもの人権110番

これらの事例のように、子どもの人権110番では被害を受けている子どもだけではなく、保護者や周りの大人からの相談から問題解決に至った事例があるという事がわかります。もしも周りに人権侵害を受けている子どもがいた際には、こちらにも相談できると覚えておくと良いでしょう。

弁護士に相談する

自分で削除申請を行うのが難しいと感じた場合や、削除申請を行っても拒否されてしまった場合、または削除できる確立を上げたいと思っている場合は弁護士に相談してみるのがオススメです。

弁護士は人権侵害を受けた被害者から依頼があれば、その被害者に代わってプロバイダ等へ削除申請を行うことができます。さらに、一般的に削除申請を行うには、削除したい投稿が法律に違反している根拠を明示しなければなりません。弁護士であれば、投稿が法律に違反していた場合、どの法律に違反しているのか明確にしてくれるため安心です。

また、人権侵害とされる投稿によって受けた被害が大きく、インターネット上にそういった投稿をした犯人を特定したい場合にも弁護士を頼ると良いでしょう。

誹謗中傷対策を行う業者に相談する

インターネットに書き込まれた書き込みが人権侵害には至らないと判断されてしまった場合、その投稿を法的に削除する事はとても難しいと言えます。また、投稿されてしまったインターネット掲示板などの管理者が既に管理を放棄してしまっていて対処してもらえない時などもあります。

そういった場合は誹謗中傷対策を行っている業者に相談してみましょう。

誹謗中傷対策を行っている業者はそれぞれの持つ技術や技能を活かし、削除が難しい投稿を検索エンジン上で目立たなくする対策などを提案してくれます。相談の際には自分の予算や希望などをしっかりと提示し、どんな対策を行うのかヒアリングをした上で、自分の納得できる業者に依頼するようにしましょう。

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まとめ|ネットの人権侵害に関わらないために今一度投稿ルールと対処法の確認を

人権侵害に関わらないために今一度投稿ルールと対処法の確認を

幅広い年代・様々な境遇の人がインターネットを利用するようになり、インターネット上、とりわけSNSなどを介した人権侵害が多くみられるようになりました。

TwitterやInstagramなどで人権侵害になり得る誹謗中傷を浴びせられ、誰にも相談出来ずに自分を追い込んでしまったまま取り返しのつかない事件に繋がってしまった例と言われて、なにかすぐに思い当たる事件がある、という方も少なくないでしょう。

インターネットにおける人権侵害は、「匿名で発言しているし、バレないから何を言っても大丈夫」「このくらいの悪ふざけなら大丈夫」「(公開アカウントであるのにも関わらず)フォロワーしか見ていないから大丈夫」などと、利用ルールを熟知していないために無意識的に関与してしまうケースもあります。

自分自身で人権侵害を行わないようにインターネットにおける発言ルールをしっかりと確認し、投稿の際には十分に注意をする習慣をつける事が大切です。そのうえで、もしも自分がインターネット上で人権侵害に遭ってしまったらどんな機関に相談できるのかも把握しておく事で、より安心してインターネットを利用できるように努めましょう。

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監修者
法律事務所アルシエン 共同代表パートナー

清水 陽平

清水陽平弁護士
2007年弁護士登録(60期)。2010年11月法律事務所アルシエンを開設。ネット中傷の削除、投稿者の特定、炎上対応などインターネット分野の法律問題に取り組んでいる。総務省の「発信者情報開示の在り方に関する研究会」(2020年)、「誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループ」(2022年~)の構成員となった。主要著書として、「サイト別ネット中傷・炎上対応マニュアル第4版(弘文堂)」などがあり、マンガ「しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~」の法律監修を務める。